4.

北へ北へと逃げたくなるのは、私が南に住んでいるからだろうか。

暖かな空気は甘やかしながらまとわりついてくるから不快で、肌を擦るような冷気は厳しいからあこがれていた。

 

今日からあまり宛のない旅に出る。会いたい人には会う。それからのことは考えていない。

やさしい、やさしい人。傷つけないといい。気を抜くとあっという間に甘えに飲まれてしまう。

美化してはいけない。人を人として見なければいけない。私もあなたも、ここもどこも、生きていて現実なのだ。

 

たぶん私は一人きりになる必要があるのだと思う。

どうしようもない孤独の中でしか、本心から人のことを考えられない。

 

期待をやめたような顔をしているのにもそれなりの理由や傷があったはずなのに。

どうして怪我をしたのかは忘れてしまって、跡だけ残っている。その跡を指でなぞると、なんとなくおそろしい気持ちだけ蘇る。

なんで死にたかったか、あなたは覚えてる?私はあんまり。

 

どこか空々しい森を抜けた先が、海の見える丘ならよかった。

3.

ほんとうは、もっと上手に泳げるんだよ。

 

目を合わせると、底の浅さを見透かされるようで恐ろしかった。

人と向き合いながら発する言葉に真実なんてひとつもなくて、みっともなく様子を伺いながら、ばれないようにできるだけ美しい言葉を選んだ。

心をこめて嘘を話せば本当みたいに聞こえるようで、やさしい人たちを欺きながら、自分にあたたかな感情を向けてもらえるよう必死だった。

 

おはじきに光を透かして、清潔になろうとした。

懐かしいね。すこし悲しいね。

 

彼岸が見えていればまだよかったのかもしれない。

どこまで泳ぐ?私は疲れてしまったよ。

 

泣きながら電話してきたあの人たちのこと、話したこと。

私の中にあなたの苦しみを澱ませておくから、ぜんぶ忘れてしまえよ。

私なんていなくても、みんな大丈夫だったのにね。

勝手に力になれたような、あなたの何かになれたような気になって、ごめんね。気持ちが悪いね。

 

私に何かを見つけてほしかった。

なんにも、なんにもないね。

2.

「君と最悪の人生を消したい」

 

どこまで行っても自分のことしか考えられない。

忘れられないのは誰かのことではなく、誰かといたときの私のこと。

 

本も読めない、音楽も聴けない。ぼんやりと作業のように日々をこなす。

仕事をしてお金をもらってご飯を食べて生活をする。それだけで満たすことだってできる。

それでも意味がないとつまらない。自分だけでは自分を満たせない。

穴を埋めるためだけに人を求めるなよ。

 

かすんでいく背中は誰のものであったか。

冬の晴天、胸いっぱいに冷たい空気を吸い込むと頬を張られたような気になった。

 

明日には全部忘れる。

それでも生きていこうと思えるのかい。

1.

すっかり歳をとってしまった私のことを書く。

すべてを覚えていることは難しいから、忘れてしまってもいいように、言葉で残す。

 

わからないまま続いていくことを許容できない。

頭の中の世界のためだけに、現実を続けていけるか。

 

毎日嘘をついている。明日につないで何もない。

囲んで結んで逃げられない、手のひらの昨日を眺めている。

ぼんやりとした憂鬱に、とても深い意味があるような顔をして、いつだって見透かされることに怯えていた。

 

底が見えたら、そこから始められたらよかった。

自己から観察可能な自意識すら虚飾し、いつからかそのことへの抵抗もなくなった。

自分を守るためにはどのようにすればいいか、私はちゃんと知っていた。気持ち悪いくらいに。

 

毎日間違える、いまだって、1秒前を間違える。

 

あなたに笑っていてほしい。